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大規模農業でも持続可能性の追求は可能か?

今回は、30年前から農業事業を手掛ける、和郷園代表の木内さんが執筆した「結農(ゆいのう)論」から大規模農業は持続可能性を綴る。

 

結論

農業事業を長期計画で考えて、「マーケットインの発想」を追及すれば、大規模農業でも持続可能。

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広大な圃場


和郷園のマーケットインに対する意識

木内さんは30年ほど前に農業参入。自身で価格を決めらない農産物市場に疑問を持つ。
私自身も過去に、長野のレタス農家さんのもとで収穫作業のバイトをしていたとき、豊作時は出荷資材の方が高くつくからレタスを潰すという話を聞いた。
いわゆる、「豊作貧乏」という問題である。

農産物の価格は自分で決めることを決意

そんな問題に対して、木内さんは市場に任せるのではなく、自分で価格を決めるために努力を始める。
顧客や青果バイヤーのニーズを先取りすることを最優先事項とする。
そして、あるバイヤーから「無農薬」で野菜を卸せないか相談を受ける。
普通なら下記の理由で無農薬野菜は生産性が低く、誰もやりたくない生産方法である。
・虫退治や雑草処理に人手がかかる
・虫や病気の影響で大きく育ちにくい
・大きさにバラツキが発生し、規格が不揃いになる
しかし、木内さんはどうすれば無農薬で作れるかという発想から生産を組み立てる。
例えば、ほうれん草の場合、冬の寒い時期でも生産可能な作物。
冬に生産すれば、無農薬のデメリットである、病害虫のリスクが低いため、農薬を撒かなくても育てやすい。
1点、規格が不揃いの問題は残るが、そこは諦めずにバイヤーと交渉を重ねて妥協点を探る。
結果、小さい規格でも全量買い取る契約を締結。無農薬ほうれん草という付加価値で卸価格を市場価格の10倍ほどまでアップすることを実現。
生産起点ではなく、顧客の声を真摯に聞いて実現化させていくのが、木内さん率いる和郷園の強みであり、「消費者理解」の徹底が功を奏した。
 

「消費者理解」は言うは易く行うは難し

「消費者理解」を追求することが重要なのは誰しもが頭では分かっている。
しかし、企業体として意思決定する際に、どうしても関わる人たちの利害関係を考えるため、実行するのは非常に難しい。
USJの立て直しのため、「ハリーポッター」の新エリアを作ったP&G出身の森岡さんの言葉が非常に印象深い。
ある人はカレーライスが良いと言う。別の人はすき焼きが良いと言う。そんなときに多くの会社では、誰かが頑張らないと「カレーすき焼き」を作って消費者に提供してしまうことになります。(中略)あなたが取るべき行動は、社内をカレーライス一本でまとめることです。決して「カレーすき焼き」を作らせてはいけません。

ここに「消費者理解」の追求が難しく、妥協案を実行してしまう理由が詰まっていると考える。
私自身、あるメーカーで植物工場野菜の商品開発をしていたとき、顧客の声と会社の上司の意見の板挟みとなった。
結果的に、250円もする野菜を店頭に並べることになり、全く売れずに値下げするに至った。
会社として「消費者理解」を追求する強い覚悟がない限りなかなか実現は難しいが、和郷園は今もなお続けている。
 

農薬使用の見える化のためにラベリング

もちろん、和郷園の生産する大多数の農作物は農薬を使用している。
健全に安定的に作物を育てるためには、「予防」という観点でも農薬は必要な役割を果たす。
私たちが子どものころの予防接種を受けるイメージである。
そして、木内さんの工夫は農薬の使用量に応じてラベリングするところである。
一般的に農協が買い取る農産物は、農薬の使用量は基準内かどうかしか定義がない。
そのため、ほとんど使っていない人と基準ギリギリまで使っている野菜が規格だけで評価されている。
しかし、和郷園では「青=天然、黒=減農薬、赤=基準外」のようにラベルリングにより、農薬の使用レベルの見える化を実現。
結果、それぞれに適した販路を割り当て、農作物の平均単価をアップさせている。
 

農業事業は長期計画が最重要

一つ、私自身、共感したひと言があるので紹介する。
農業はインフラ産業 

というのも、大規模農業で利益を上げるためにハウス建設や機械導入のような投資が必須。そのため、お金の使い方次第で10年後の運命を左右する。

一般的に、企業で事業計画を策定するときは、3~5年の投資回収を目標にする。

私自身、植物工場事業を拡大させるフェーズで、5年で投資回収できる事業計画をかかざるをえなかった経験がある。
なぜなら、社長決裁を通すにはどうしても短期的な目線で投資回収を実現する計画が必要となる。
当時は入社3年目ということもあり、「おかしい」とは言えるはずもなく、無理な計画をどう実現するか頭を抱えた。
結果的に、そんな計画がどうなったかというと、2014年から7年経っても撤退はしていないが赤字が続いていると聞く。
一方で、木内さんは10年以上の計画で物事を考え、短期的な目線では結果を判断しない。

10年以上かけて花開いた事業

一つ、長期計画により成功させたのが、「リサイクルで堆肥をつくる」事業である。
内容は、近隣の酪農家からの家畜の糞尿、冷凍野菜工場やカット野菜工場などから出る野菜残渣を堆肥化させるものである。
当初は残渣を集めるコストやリサイクルするコストが廃棄するコストを上回っていた。
しかし、諦めることなく10年以上の歳月をかけた結果、廃棄コストを下回るレベルまで近づけた。
 

大規模農業には「長期計画」と「マーケットインの発想」が必須

このように、農業をインフラ産業と捉えて長期で計画を立て、「マーケットインの発想」を追及する和合園は生産規模をどんどん拡大させている。
私自身、農業をスケール化させるお手伝いをするときに意識したい観点である。
本書にはその他、農業をサービス業と捉える考えやエッセンスが詰まっているのでオススメの1冊。

 今回も最後まで読んで頂きありがとうございます。