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【第2弾】「農業DeFi=FarmFi」で農業資金調達を実現!~農業金融を牛耳る農協~

あなたは「農業金融」と聞いてどんなイメージがあるだろうか?

✓農業の生産量拡大に向けた資金調達
✓海外輸出向けの体制づくりの投資資金
✓市況の変化や災害による赤字補填のための資金投入

「農業金融」と一言で言っても、色々な文脈で農業に資金を投入する方法がある。

一般的には、農業生産を対象とした資金の貸借であり、農産物の販売・流通面、農家生活面をも対象とした金融である。
※参考:加藤譲著『農業金融論』(1983・明文書房)

農業DeFiの可能性

 

次の円グラフは、国内における「農業分野への貸出残高比率」である。

農協が過半数を占める

JAバンクの運営元である「農協(農業協同組合)」は農業関連融資の国内シェア6割を占める。現在、日本における農業金融の主要プレーヤは、「農協」と言っても過言ではない。

農協は、経済事業を通じて農業機械などを農家に斡旋し、JAバンクを通じてその購入資金を供給することによって、わが国農業の機械化進展に貢献したと考えられる。
ー変わる! 農業金融―儲かる〝企業化する農業〟の仕組み(中里 幸聖(著))

近年では、「農協不要論」が叫ばれている。
一方で、農家の収入確保と農作物の〝安定供給〟実現のために多大なる役割を発揮してきたことは事実である。

従来、農業に関わる人たちが最重視してきたことは、農作物を販売して儲けることより、〝安定供給〟の継続であった。
農協は、自然災害はもちろん、どんな不況であっても、人間が飢えることのないように、常に市場に供給し続けることに注力してきた。

時は令和………、農協が果たす役割は次第に小さくなっているのもまた事実である。
特に、農産物の販売面が顕著に現れている。
次のグラフは、国産の農産物が卸売市場と呼ばれる、全国の出荷者から農作物を一度集荷する場所の数と経由する割合の推移である。

農産物の市場経由率

ご覧の通り、卸売市場の数と市場経由率は、10年で減少傾向を示している。
背景としては、インターネットの普及により、産直ECが勢力を増していることが挙げられる。
誰でも農家から直接農作物を買えることは、あなたもご存知の通りだ。
今後、このトレンドが変わることはないだろう。
そんなインターネットが普及した昨今でも、〝金融業界〟は大きく変わっていないのが現状だ。
反対勢力が大勢いるだろうが、変わらないことの弊害は小さくない。

そこで今回は、農業金融の課題と農家の求めるであろう姿を紹介したい。
その上で、次の第3弾で、「農業DeFi」をキーワードに新たな農業金融のカタチを紹介する。どのように課題解決していくかに繋げる。

目次

農業金融の課題とは何か

昨今の円安傾向、ウクライナ危機による原油高、コロナ禍による輸出入の停滞により、食品だけではなく、農業資材が高騰している事実をご存知だろうか?

日本政策金融公庫が農業融資先を対象に実施した調査では「生産コスト増加」が回答率の一番高い結果だ。

農業経営者の抱える課題

肥料やマルチのような農業資材はもちろん、ハウス栽培であれば燃油のようなエネルギーの高騰は生産原価に直接大きな影響を及ぼす。

イカーを持つ方や、ガソリンスタンドの近くを通る方であれば、ガソリン価格の高止まりはご存知の通りだろう。

ガソリン価格の高止まり

 

エネルギー価格の高騰と併せて農業界で特に問題になっているのは、農業用資材の原料が調達できない点だ。

外資源に頼る日本の農業課題

現在、農家の中で、農業用肥料が入手できなくなっている問題はご存知だろうか。
例えば、ハウス栽培が主流のトマトやイチゴのような園芸作物に使う「液体肥料」は、売り切れ続出である。

液体肥料を取り扱う最大手「大塚アグリテクノ(OAT)」が販売するものも欠品続出である。

欠品する肥料


背景としては、日本で流通する肥料の原料には、中国やロシアからの輸入している資源が含まれていることが挙げられる。
肥料の三要素は「NPK」と農業界では呼ばれる「窒素・リン酸・カリ」である。
そのうち、K(カリ)の主原料となる、塩化カリは12.2%がロシアからの輸入に依存していた。また、リン酸(P)の主原料となる、リン鉱石は9割近くが中国からの輸入に頼っていた。
ロシアからの輸入が難航している点は説明不要だろう。
一方で、なぜ中国からの輸入資源まで入手困難を極めているのかを説明したい。

原因は大きく2つある。

①生産量を減らしていること
②輸出量を絞っていること

①の背景は、中国における環境保護政策の強化である。
日本ではあまり知られていないが、肥料の製造過程では大量の二酸化炭素(CO₂)を放出する。そのため、中国では環境負荷低減のためにCO₂削減を目指して、肥料工場の取り締まりに乗り出した。
厳しい取り締まりにより、国の基準を満たしていない工場の操業を止めざるを得なかった。結果、製造量が激減したのだ。
製造量を減らしても、人口を多く抱えて、経済成長が著しい中国での内需が減ることはない。

そこで②の理由につながるが、〝自国優先〟のために、肥料の安定確保と備蓄に躍起になっている。
輸出量を減らす仕組みとして、尿素やリン酸肥料など化学肥料関連の29品目を対象に21年10月から輸出前の検査を開始した。 
その結果、日本への輸出が激減したのだ。
※参考:止まらぬ肥料価格の高騰に日本は耐えられるのか?

日本としては、国内で賄えない原料の一つであるリン鉱石は、どうしても海外から輸入が必要である。
そのため、モロッコなど他国からの輸入切り替えに動いている。
資源を輸入に頼る他の国も同様の課題を抱えるため、資源の取り合いが起こっている。資本主義の論理により、入札価格を引き上げざるを得ず、仕入価格が高まっているのだ。

もちろん、長い目で見て、化学肥料から有機肥料に切り替えたり、肥料の内製化を推し進めたり、海外に依存しない体制の確立は必要である。
しかし、有機栽培の普及や肥料の内製化は一朝一夕ではいかない、
当面の間、原価高騰の対策として、販売価格の引き上げや、キャッシュフロー改善のための資金調達が必要である。

転嫁できない農作物の価格

そんな、生産原価の高騰を売価にそのまま反映できれば農家も苦労することはない。
しかし、先ほどの日本政策金融公庫の調査結果を見て明らかなように、農家の抱える最も重要な課題は「販売単価の低迷」である。

販売単価低迷の課題

なんと、46%の農家が課題として捉えているのが実状だ。
今のところスーパーで小麦粉や油の値上げが始まっている中、農作物がそこまで値上がっていないことからも実感頂けるかもしれない。

そんな状況は農家にとっては生産原価高騰と売価低迷のダブルパンチである。
その結果、「働けど収入ジリ貧の農家」が急増しているのだ。

短期的には赤字前提として、今までに貯蓄した資金を投入して凌いでいけるだろうが、小規模・大規模問わず潤沢な資金を持っていない農業経営者は長くは持たないだろう。

なぜなら、農業は特に、キャッシュフローが悪化しやすいビジネスモデルであるからだ。種や苗の植え付けや農業資材の投入から、売上につながるまで半年から1年かかることはざらにある。
〝桃栗三年柿八年〟と言われるように、果樹園であれば、資金回収はさらに先となる。

そのため、農業を始める際はもちろん、キャッシュフロー改善のためには、「農業融資」に頼る農家は多い。
一般的な銀行融資と同様、農業参入時や経営が良好な時には資金調達で困ることはないだろう。
しかし、今のような市況で財政悪化する農家への融資に後ろ向きな銀行が増えるのは致し方ない。

これからの農業金融に求められるもの

種や苗の植え付けや農業資材への投資から、回収までに時間がかかる上に、天候次第で不作になるリスクを抱える〝ギャンブル〟のような農業ビジネス……。
投資対効果が期待を上回るかは、神のみぞ知ると言っても過言ではない。

そんな、ハイリスクの事業に挑戦できる風土をしっかりと整えることが農業従事者を維持するためには必要不可欠である。
ただでさえ、高齢化で減少傾向にある農業従事者の数である。
早急に対処しないことには、日本の国力にも大きく影響を及ぼす。

そんな農業界を支えるためには、資金調達を手軽にすることや、資材投入前から売上を立てるような仕組みが必要だ。

また、仮に天候や環境要因により不作のときには農家の負担を減らす仕組みも併せて重要になる。

現在では、クラウドファンディングのような仕組みで生産前に夢を掲げて資金調達する農家も存在する。
しかし、クラウドファンディングでは、どうしても注目度を高めるために、話題性のある作物や商品が選ばれる傾向にある。
一般的な農作物を生産する農家からすると、なかなか気軽にできるものではない。
また、大規模農家であれば、クラウドファンディングで数千万円の資金を調達しないことには、成り立たないだろう。

クラウドファンディングのような仕組みをもっと手軽に、どんな農家でも資金調達が実現できる仕組みがこれからの農業金融に必要と考える。

そこで次回は、「農業DeFi」をキーワードに個人間融資が一般化した世界のあり方を描きたい。

今回も最後までお読みいただきありがとうございます。