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有機農業の可能性とは!?~2050年までに日本全体の有機農地を25%に~

みなさんは日本の農地全体に対する有機農地の割合はどのくらいかご存知でしょうか?
先日、農林水産省は、化学肥料や農薬を使用しない有機農業の面積を2050年までに25%の100万ヘクタールまで拡大することを目標に掲げた。

有機農業を農地の25%まで拡大へ 脱炭素で2050年までに 農水省 | 環境 | NHKニュース

しかし、現状の有機農業の面積は、なんと全体の「1%」にも満たない状況である。
そんな現状から30年間で25%まで拡大することはそもそも可能なのか?

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有機農業の可能性
目次

有機農業が広まらない3つの理由

私の見解では、今まで通りの仕組みのままで進めていても到底無理だと考える。
その背景としては、有機農業は一般的に、①時間がかかり、②原価が高くなり、③収量が減るからである。
それぞれ簡単に説明する。

1.有機農地にするまで時間がかかる

有機農地」という認定を農水省から受けるには作物によっては3年間かかる。
そのため、仮に明日から有機農業を始めようと思い立っても、過去に化学肥料や農薬を使った農地の場合、転換期間が必要。
その間にできた作物は有機栽培とは認められず、付加価値もなく、一般の作物と一緒くたになってしまう。
もちろん、個人でブランド化して高付加価値作物として高単価での販売が可能であれば利益が出るかもしれない。
しかし、ブランドも有機農地と認められるまでに時間がかかるのと同様に一朝一夕にはいかない。

2.農業資材が割高で収量が減る傾向

大量生産・大量消費を支えてきた「化学肥料」や「化学農薬」は大きな貢献を果たした。なるべく短い期間に多くの収量を上げるためには、化学肥料による土壌改良は欠かせない。また、広大な畑に育つ大量の作物を、虫食いや病気から予防するためには化学農薬も必要。
作物にもよるが、この化学肥料と化学農薬が農作物の原価に占める割合は10%にも満たないことが多い。
一方で、有機資材として、天敵を使った虫対策や菌資材を使った病気対策は化学生産物と比べて割高である。
さらに、化学肥料は無機物質がほとんどのため、作物に必要な成分を安定して供給できるため収量も安定する。
一方で有機資材は、動物の排泄物を原料にするため、成分の大半が有機物質であり、どうしても成分や品質にバラつきが発生してしまう。
その結果、原価は上昇し、収量も減少してしまう。

3.手間がかかるが収量が減る傾向

有機農業を実現する中で一番の敵は、実は、虫でも病気でもなく「雑草」である。
雑草を生やしたままで栽培する農家もいるが、デメリットは、作物に必要な栄養や水分を横取りされる上に、太陽光を遮る影響がある点。
そのため、基本的には、雑草を取り除くことが求められる。
除草剤のような、化学農薬を使えば死滅させることは可能だが、有機資材で除草するアイテムは私自身知らない。
抑草資材を散布して雑草の根の成長を抑制することが可能だが、どうしても草刈りは必要になる。
そこまで手を加えて除草をしても有機栽培で生産すると、2.でも説明したように収量が減少する傾向がある。
 
以上のように、有機農業は化学物質を活用する慣行農業に比べて、あらゆる面で不利である。そのため、多くの人にとっては儲かりづらい有機農業は参入し辛く、日本においては日本全体の農地において1%にも満たない状況が続いている。
 

有機農業の可能性

では、有機農業は儲からないため永遠に普及しないのでしょうか?
答えはもちろん「No」である。

その理由は、有機栽培で儲かる農業を実現している農家も存在しており、新たな技術もどんどん出てきているからである。有機栽培の農作物に対するイメージも高まっているので仮に慣行農業の農作物と販売価格を同等レベルにまで落とすことが出来れば、市場をひっくり返す潜在能力はある。

今回はそんな潜在能力を体現したような、「ムスカ」と「ふしちゃんファーム」という2つの会社を紹介する。

ハエが技術革新の切り札

みなさんは「ハエ」と聞いてどのようなイメージがありますか?

ハエというと、「汚い」「気持ち悪い」「病気を媒介する」などネガティブなイメージが強いのが一般的である。

そんな、「嫌われ者」のハエを活用して、有機肥料を生産するベンチャー企業を紹介。

その会社名はムスカ(MUSCA)」である。社名の由来である「ムスカ・ドメスティカ」は「イエバエ」の学名である。
当社はイエバエに命をかけて事業を創造している。

この会社の特徴はなんと言っても、45年間にもわたって1100世代以上、品種改良し続けた“最強のイエバエ”を持っている点である。

このイエバエを活用するアイデアに着目したのは旧ソ連であり、起源は今から半世紀前に遡る。
国家プロジェクトとして、宇宙船内でのバイオリサイクルにハエを活用する技術開発であった。宇宙船内で宇宙飛行士の排泄物をハエが分解して資源に変えることにより、循環する仕組みの構築に挑戦。
しかし、そんな夢のある研究はソ連崩壊により頓挫してしまう。
その技術に目を付けたある日本人が権利を買い取り、1990年から日本国内での研究に繋げる。
そこから品種改良を繰り返し続けて、2016年にようやく量産化の目途が付いたため遂に事業化に踏み出す。

ハエの分解スピードは超高速で「飼料」と「肥料」が生産される

技術のポイントは、牛や豚のような畜産の排泄物をハエの幼虫が食糧として物凄いスピードで分解して、ハエの幼虫の排泄物が肥料になる。
さらに驚きなのは、大きくなった幼虫は飼料として魚や畜産の餌になるという何とも循環型社会を体現したような仕組みである。

現在、ムスカは事業化に向けた実験段階のため、スケール化はこれからである。
数年以内には、イエバエ工場の畜産地域に建設していき、排泄物を有機肥料に変える仕組みをどんどん構築していくことが予想できる。
すると、有機肥料のコスト低下にも繋がり、有機農地の土づくりを加速化させる可能性を秘めている。

冷蔵設備への積極投資による在庫コントロールがカギ

次に「ふしちゃんファーム」という茨城県有機農業を行う2015年に設立された会社を紹介する。
この会社は、こまつなやほうれん草など6種類の葉物を1ヘクタール規模のハウスで栽培している。
実は、この会社はコロナ禍や悪天候ももろともせず、売上を堅調に伸ばしている注目すべき会社である。
就農3年目は3000万円の売上が、6年目になる2020年には、なんと売上8000万円まで伸ばして1億円までもう少しのところまできている。
なぜ儲かり辛い有機農業において、逆境をもろともせず右肩上がりの成長を実現しているのか?
それは、栽培作物の鮮度保持のための冷蔵設備に積極的な投資をしていることにある。
冷蔵設備を導入した結果、収穫後3週間、鮮度を保つことができて、販路先をじっくり選定することが可能。
一般的に、葉物野菜は収穫後3日も経てば、萎れてしまうため売り物にならない。
そんな常識を大きく打ち破り、鮮度を維持する設備を自社で持つことで、コロナ禍で激減した外食チェーンや給食への出荷を、ECのような直販やスーパーのような小売店に機動的に切り替えた。
その結果、売上の単価を向上させて、窮地を乗り越えた。
有機農業を推進するためには、原価がかかり、収量が減る傾向のある農作物の鮮度を維持させて、売れ残りを減らす工夫がかなり重要である。

有機農業は工夫次第で儲けることは可能で伸びしろは大きい

もちろん、今まで通りの仕組みのままで、全てを農家に任せて農業を推進しても有機農業は普及しない。
というのも、今回紹介した2社もそうだが、新たなことを始めるにはどうしても投資が大きくかかってしまう。
農水省としても、「2050年までに25%の100万ヘクタールまで拡大すること」を目標に掲げたからには可能性のある技術や設備への積極支援は不可欠。
恐らく、目標を掲げたからには、今までとは比べ物にならない予算は取ることは予想できるため、これからの有機農業に可能性は感じている。

農業コンサルとしてできること

今回紹介した企業以外にも数多くの企業が新たな技術やサービスを手掛け始めている。
私自身、農業コンサルとして活動しているため、有機農業参入のお問い合わせを頂くこともこれから増えてくることを予想している。
今のうちからできることとして、ITや新技術で有機農業の仕組みを作れる企業と繋がり協業できる体制づくりを進めていく。
有機農業×IT×コンサル」の肩書を持てるよう、引き続き、情報発信を続けていきますので、応援頂けると幸いです。
 
今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございます。